“雪が趣深く降った朝、ある人のもとに、所用のために手紙を送った際、
雪のことに何もふれなかった。その返事に、「この雪をいかが御覧です
かと、一言のあいさつもないような、そんな粗野なお方の仰せを受け入
れるわけにはいきません。それにしてもがっかりさせられる御心の浅さ
です」と言って来たのは、おもしろかった。
今はなき人の思い出なので、この程度の事も忘れがたい。”
…『徒然草』第三十一段
兼好の生きた時代、雪の朝には気のおけない者同士がその興趣を
ともにするならわしがあったという。手紙の相手は女性であろう
が、それほど思い入れのある方ではなかったのか、たあいもない
出来事として回想している。