『枕草子』182 病は
❝ 病気は 胸。物の怪。脚の気。さらには、ただなんということ
もないが、食欲のない症状。❞
この段では清少納言の目についた病の種類を述べている。
【 物の怪 】とは、人にとりついて悩まし、病気や死などをもた
らす悪霊、他人の怨恨、である。すべての病の元は物の怪だ、
というので僧や修験者、巫女などによる加持祈祷が一番の療法だ
ったようだ。薬による科学的療法ももちろんあったが、先ずは
「加持祈祷」なのである。
【胸】の病とは何なのかはっきりしないが、「広く胸部の急性
の痛みを伴う病気で、心臓、胃、肝臓の病気など」の説がある。
【 脚の気 】脚気(かっけ)のことのようだ。脚の血がのぼって
頭などがほてる症状をも言うらしい。
【 食欲減退 】気の強そうに見える清少納言でも食欲がない時が
あったようだ。定子の後宮に女房として仕え始めた頃、あるいは
中関白・藤原道隆が亡くなった頃、ほかの女房たちから意地悪さ
れ、陰口を言われ心が傷つき里に帰ったことがある(紫式部にも
同様の事件がある)。数十人もの女房のいる後宮ではストレスが
多いのだ。今でいう、「心の病」だろうか?
※現代語訳:上坂信夫氏ほか