枕草子に見る 流行病の治療(すさまじきもの)

 

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❝験者が物の怪を調伏すると言って、大変自信ありそうに、独鈷や数珠などを持たせ、ふりしぼるような声で経や陀羅尼を読んでいても、全然調伏できそうにもなく、憑坐(よりまし)に護法童子も乗り移ってくれないので、家族の男も女も、病人の周囲に集まって祈念したのにこの験者で大丈夫かなと思っていると、二時間ほど経を読み、疲れて、「全然、物の怪が(慿坐に)乗り移らない。立ちなさい」と言って、慿坐から数珠を取り戻し、「ああ、本当に(祈祷の)効験がない」とちょっと口に出して、額から頭の方へと手で撫で上げ、あくびを人前をもかまわず、ちょっとして物によりかかって、楽な姿勢になっている。❞

 

枕草子』二十三 すさまじきもの

※現代語訳:上坂信夫氏ほか

 

 

 

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[語釈]
験者…修験者。病気は人の怨念が取り憑いてなるものと考え、その怨念(物の怪)を取り除くために加持祈祷する(これを調伏という)。密教的行法。験者は普通、慿坐を同伴し物の怪をそれに乗り移らせるのだが、その前に仏法のために使われる護法童子と呼ばれる鬼神を取り憑かせる。

慿坐(よりまし)…神降ろしの時、神霊が乗り移るべき童。みこ。

 

[余説]
「すさまじきもの」には、いかにも自信満々の験者が登場する。しかし調伏は難航して、長時間に及ぶ祈祷のかいもなく物の怪は姿を現さない。疲れ果てた験者は、家人の見守る中大あくびをして横になってしまう。作者はそれを「すさまじ」という。

 

[疫病大流行]
正歴五年(994)の春から、痘瘡(もがさ・天然痘)という疫病大流行(公卿上席者に死亡相次ぐ)のみられた年であったという。清少納言初出任の翌年である。

中宮定子の父、関白藤原道隆(43)死亡。道隆の死亡原因は疫病ではなく持病(大酒飲みだったそうだ)。

 

 

 

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