いつだったか、仕事帰りに堀川通を歩いていると西洋の若い女性に声をかけられた。たぶん英語で話しかけられたと思うのだが、なにを言っているのやらさっぱり分からなかった。すると女性は一枚のチラシを差し出し、ある位置を指さした。それには地図が印刷されていて、その場所に行きたいということがようやく分かったので、すぐ近くのビルを案内した。
で、その女性を案内した場所はというと、[ 風俗博物館 ]というところなのだ。コンビニのビルにそんな博物館があることを初めて知った。そのことを職場の若い子に話したところ、なにをカン違いしたのか鼻の下を伸ばしニヤニヤ。どうやら奴さん、風俗を木屋町通りあたりにある風俗店とカン違いをしていたようだ。
その風俗博物館というのは平安貴族の衣装などを展示しているところのようで、中でも源氏物語をテーマにし、「物語の様々なシーンを選び、具現展示」をしているという。
カサノヴァって誰?
『 カサノヴァ 回想録』はヴェネチア生まれの一人の男の回想録(告白録)である。カサノヴァは、数々の女性遍歴を繰り返し、「女たらし」(人たらしとしても一流)としてヨーロッパで評判の男だったようで、アラン・ドロン主演で映画にもなっているほどだ。回想録を読めばヨーロッパの国々の風習や宗教のこと、それに医療や奴隷制度の実態(!)、金融のことなども分かる。
そしてまた貴族の間での不倫の実態(バルザックやトルストイの小説を読むようだ!)とはどのようなものだったか。さらには各国を渡り歩き、その国々の感染症対策にまで言及している。当時の感染症や性病、その治療法のことも叙述しているので色々と参考になることもある。カサノヴァという男は、世間で考えられているような、単なるエッチな男ではないのである。十八世紀の風俗が学べるというか、近代ヨーロッパの歴史を知るためには読んでおくべき本かも知れない。
ついでに言っておけば、カサノヴァはスタンダールや哲学者のヴォルテールとも親交があり、フリードリヒ大王やロシアの女帝エカテリーナを頼ったりもしているのだ。モーツァルトの歌劇『ドン・ジョバンニ』の台本を書くのにも協力しているというのだから、尊敬するべきなのか、どこまでが真実なのか、さっぱり分かりません。
で、その 『 カサノヴァ 回想録』 だが、実はこれも三十年も前から読んでいるのだが、一向に読み終える気配が無い。一度目は文庫本で三冊目まで読んだのだが途中で興味が湧かなくなってしまい挫折( 気楽に読める本だろうと思い、夜勤のとき仮眠の前に読もうと購入した)。二度目に最初から読みだしたのはその十年後、三冊目を読み終え四冊目の文庫本を買いに行ったら、すでに絶版になっていた。三度目は古書店で全六冊(活字が細かいので単行本十二冊分に相当)のブロッククハウス版を見つけ購入し現在に至っている(生きている間に読み終えるかどうか自信がない)。
それで『カサノヴァ回想録』(以後『回想録』と表現)のことだが、読みだすと実に面白い。今読んでいる本はバルザック、あるいはスタンダールの小説ではないか、と錯覚( バルザックの小説は全集でほとんど読んでいるわたしが言うのだから間違いない ^^)してしまうほどだ。ぜひ皆さんに読んでほしいのだが、そう簡単に手に入る本でもなし、読了するにはモンテーニュ『エセ―』ほどに苦労(面白い本だけれど誘惑の多い時代だから)する。そこでわたしもこの本を読了するために一計を案じたのである。つまり、紹介するということを名目に読み進めて行こうと。
一言でいうとカサノ ヴァ とは、生れた国と時代、そして階級に違いこそあれ、日本の人にたとえるなら光源氏か、あるいは在原業平ではなかろうか。つまり 『回想録』 とは、平民版『源氏物語』か平民版『伊勢物語』となるのではないだろうか、とそんな気がした。
※ 続きます^^