昔、ある男がいた。宮仕えしていた后のところで古参の女房と知り合って情けを交わしていたが、その女とはまもなく別れてしまった。同じ出仕先なので、女の目には男の姿が見えるけれども、男の方は女がそこにいるかとも思っていない風だった。そこで女は次のような歌を詠んだ、
天雲のよそにも人のなりゆくかさすがに目には見ゆるものから
“ まるで空の雲のように、はるか遠い縁なきもののようにあの人は去ってゆくのでしょうか 。まったく無縁のものとは言っても、やはり私の目にはあなたの姿が見えますのに。 ”
と詠んだので、男が返した歌は、
天雲のよそにのみしてふることはわがゐる山の風はやみなり
“ 私が空の雲のように遠く離れてばかり過ごしているのは、あなた自身が身をおいている山の風が早くはげしく吹いて私を寄せつけないからですよ。”
…女には、情けを交わしている幾人もの男がいるという噂が立っていたのだ。
同じ職場での、男と女には様々な出会いと別れがありそうだ。別れた後も女は男が忘れられない。それに対し、男は女に対してすっかり関心を失ったように見える。同じ職場で顔を合わせても女のことは少しも眼中にないように見える。
女の未練を含んだ歌に対しても、「別れるようになったのは あなたのせい」と男は言っているのだ。その訳は、他に男がいるだろう、ってか?
平安時代に限ったことではなく、こんな男と女の別れは現代にもありそうだ。近ごろの新聞などの報道を見ると、男の方が “未練たらたら” という気がしないでもない。中には六股疑惑まで出ている強者の男がいるらしいけど、美男美女には気をつけろということか。
「うわさを信じちゃいけないよ」^^