にはニ三度冠雪が見られたのだけれど、京都市内では風花さ
え見ていない。寒がりの私でも風花が待ち遠しい。
山里は 雪降り積みて 道もなし 今日来む人を あはれとは見む
…平 兼盛
一条天皇の后、定子さまのもとにあらわれたのは、“定子の
た。御年ニ十歳。貴族の普段着である直衣(のうし)と指貫
(さしぬき)の紫色が真っ白な雪に映えて、なんとも言えな
いすばらしさ。大納言は柱のもとにおすわりになって、宮さ
まにおっしゃる。『昨日今日、私は物忌みでございましたが、
雪がずいぶん降りましたので、宮のもとが心配で…』
「道もないと思っていましたのに。よくもまあいらっしゃい
ましたこと」
「感心な者よと、ごらんくださるかとおもいましてね」”
この場面は『枕草子』の中でも最も印象に残るところである。
二歳違いの兄と妹はさりげなく知的会話を愉しんでいる、と
いう。それを見つめている清少納言。平安朝の貴族の会話、
とりわけ定子サロンは和歌・漢詩の教養と、あうんの呼吸が
ないと会話の仲間に入れないのだ。
文中“ ”内の引用は清川 妙さんの「枕草子」より