南青山に古美術と名園を観る(根津美術館)
東京は南青山の広大な敷地(武家屋敷跡)に、都心とは思えない緑豊かな
庭園と古美術を中心とした洒落た美術館があることをご存知だろうか。
表参道駅から徒歩数分の場所にその美術館はひっそりと佇んでいる。庭を
眺めながらスイーツを食べ、お茶するだけでも一度は行く価値があると薦
めたい。
ところがそんな美術館で見かける顔はといえば、過半数が欧米からの観光
客(おそらく庭の鑑賞)なのだ。これはもったいない。美術品に興味がな
くても、ぜひ足を運んで欲しい。
かの有名な尾形光琳の「燕子花図屏風」(国宝)はカキツバタの開花にあ
わせて年に四週間だけ展示している。ちなみに敷地はゆうに二万㎡以上あ
り、小粋な建物の設計は、新国立競技場と同じ隈 研吾氏である。
茶席に向かうような厳かな気分になる。
東側より望む。建築設計は隈 研吾氏
根津美術館は小規模でシンプルな造りである。ホールの空間も素敵だが、
階段を軸にしたドラマチックな造形にも魅力がある。
灯籠の向こうには「NEZUCAFE」がある。歩き疲れたなら庭園を眺めながら
休むことができる。
ここの庭園の魅力は、何と言っても過剰に人の手を加えていない所であろうか。
自然に近い趣で草木や水辺に親しめる所がよい。特筆すべきは池の水質管理で
ある。水の濁りや落葉が浮いていてもおかしく無いのに、ほとんど気が付かな
かった。
残念ながらカキツバタの咲く時期は終えていた。例年ゴールデンウイーク
頃に咲き、それに合わせ尾形光琳「燕子花図」(国宝)の屏風を展示する。
この辺りが青モミジの美しいところである。「披錦斎の紅葉」とはここのことか。
根津美術館の庭園を歩いて気づくことがある。それは地形を生かした
庭園の造形の妙にある。谷側に池を造り、それが庭の中心になってい
るのだ。それは美術館の所有している尾形光琳の「燕子花図」に合わ
せて意図した造りになっているに違いない。いったい誰がこの庭を作
ったのだろうかと興味が湧く。
待合の右手方向に弘仁亭・無事庵がある。庭園内には茶室が四棟ある。
本館から弘仁亭・無事庵へ向かうには、この道を利用するようである。
訪れた日には「はじめての古美術鑑賞」という企画展が催されていた。
主に漆器や茶器などの工芸品が展示されていた。中国の漆工芸品 堆黒
に見事なものがあったように思える。
青山という立地にしては広大な庭園である。美術品と庭園の鑑賞、
それに休憩を入れ せめて二時間は欲しい。
十代最後の頃、青山通りやみゆき通りをホンダのバイクで疾駆していた
時期があった。みゆき通りを走っている時、視界の右手に古風な門構え
の建物と緑豊かな庭園があることに気づいていた。
ある時、バイクを止め、いったいこの建物は何だろうと思い眺めた。
それが「根津美術館」であった。
あれから相当の年月が過ぎ、青山も変貌してしまった。
※撮影年:2018